
そのサジェスト対策、AI時代に通用しますか?
「自社の名前を検索したら、ネガティブな関連ワードが…」
企業のWeb担当者や経営者の方であれば、一度は頭を悩ませたことがあるのではないでしょうか。いわゆる「サジェスト汚染」は、企業のブランドイメージを著しく毀損し、見込み客を遠ざける深刻な問題です。
これまで、この問題に対して「ポジティブなキーワードで検索回数を増やす」「Googleに削除申請を行う」といった様々な「サジェスト対策」が講じられてきました。しかし、その常識が今、根底から覆されようとしています。
その原因は、GoogleのSGE(Search Generative Experience)やPerplexity、Microsoft Copilotといった「AI検索エンジン」の台頭です。
これまでの検索エンジンがWebサイトへの「道しるべ」だったのに対し、AI検索エンジンは情報そのものを要約し、ユーザーに「答え」を直接提示します。この変化は、私たちがこれまで行ってきたサジェスト対策の有効性に、大きな疑問符を投げかけています。
この記事では、AI検索時代の到来を踏まえ、以下の点を徹底的に解説します。
- 従来のサジェスト対策がなぜ通用しなくなるのか
- AI検索エンジンは情報をどのように評価し、回答を生成するのか
- これからの時代に本当に効果のある、新しい評判管理(レピュテーションマネジメント)とは何か
小手先のテクニックが通用しなくなった今こそ、本質的な対策が求められています。本記事を読めば、AI時代を勝ち抜くための新しい評判管理の羅針盤が手に入るはずです。
第1章:サジェスト汚染とは?従来の対策とその限界
新しい対策を理解するために、まずはこれまでの常識を振り返っておきましょう。
サジェスト機能の仕組みと「汚染」の原因
Googleなどの検索エンジンでキーワードを入力すると、検索窓の下に候補となるキーワード群が表示されます。これが「サジェスト機能(オートコンプリート)」です。
この機能は、主に以下の要素に基づいてキーワードを提案しています。
- 他のユーザーによる検索頻度(検索ボリューム)
- ユーザー自身の過去の検索履歴
- 検索キーワードとの関連性
- 世の中のトレンド
「サジェスト汚染」とは、この仕組みを逆手に取り、特定の企業名や商品名に対して「評判悪い」「詐欺」「炎上」といったネガティブなキーワードが関連付けられてしまう状態を指します。一度ネガティブなサジェストが表示されると、それを見たユーザーがクリックし、さらに検索ボリュームが増えるという悪循環に陥りがちです。これは、企業の信頼性を揺るがし、売上や採用活動にまで悪影響を及ぼす深刻な問題です。
これまで主流だったサジェスト対策
この問題に対し、主に以下のような対策が取られてきました。
- 逆サジェスト対策:「(企業名) おすすめ」「(商品名) 口コミ」といったポジティブなキーワードの組み合わせを、ツールなどを使って意図的に検索させ、ネガティブなサジェストを押し下げる手法。
- Googleへの削除申請:Googleのポリシーに違反する(名誉毀損、プライバシー侵害など)と判断される場合、専用フォームから削除を申請する。
- 弁護士を通じた法的措置:削除申請が通らない場合や、誹謗中傷の発信源を特定したい場合に、法的な手続きを取る。
これらの対策は、あくまでサジェストに表示される「キーワードの文字列」をターゲットにしたものでした。しかし、AI検索の登場により、このアプローチそのものが時代遅れになろうとしています。
第2章:AI検索エンジンはサジェストをどう扱うのか?
AI検索エンジンは、従来の検索エンジンとは根本的に情報の扱い方が異なります。この違いを理解することが、新しい対策を考える上での鍵となります。
「リンク一覧」から「要約された答え」へ
従来の検索エンジンは、クエリに対して関連性の高いWebページの「リスト(リンク集)」を返すのが主な役割でした。ユーザーは提示されたリンクをクリックし、自分で情報を見つけ、真偽を判断する必要がありました。
一方、AI検索エンジンは、Web上にある膨大な情報を大規模言語モデル(LLM)がリアルタイムでクロール・分析・要約し、ユーザーの質問に対する直接的な「答え」を自然な文章で生成します。
つまり、問題の焦点が「検索候補の単語(サジェスト)」から「AIが生成する回答文の中身」へと完全にシフトしたのです。
(上図:従来の検索はWebサイトへの案内役、AI検索は情報を要約して直接回答を生成する)
AIは「サジェスト」ではなく「コンテンツ」を見ている
ここが最も重要なポイントです。
AI検索エンジンは、サジェストに表示されているキーワードを直接参照して回答を生成しているのではありません。AIが見ているのは、そのキーワードで検索した結果表示されるWebページ群の「中身(コンテンツ)」です。
例えば、「株式会社A 評判」と検索された場合、AIは以下のようなプロセスで回答を生成します。
- 「株式会社A 評判」に関連する複数のWebページ(公式サイト、ニュース記事、口コミサイト、ブログなど)を瞬時に読み込む。
- 各ページの内容を分析し、ポジティブな情報とネガティブな情報を抽出・整理する。
- それらの情報を統合し、「株式会社Aは、〇〇という点で高い評価を得ている一方で、△△といった懸念点も指摘されています」といった中立的な要約文を生成する。
このプロセスにおいて、逆サジェスト対策で「株式会社A おすすめ」という検索をいくら増やしても、AIが参照する元々のWebページにネガティブな情報が存在する限り、その内容は回答に反映されてしまうのです。
AI検索における新たな評判リスク
AI検索は、サジェスト汚染とは異なる、新たな種類のリスクをもたらします。
- 断定的な表現による誤認:AIが生成した要約文は、まるで確定した「事実」のように読めてしまいます。複数のネガティブな記事をソースにされると、非常に説得力のあるネガティブな紹介文が生成される危険性があります。
- 情報の固定化:一度AIの回答にネガティブな情報が組み込まれると、その情報が長期間にわたって表示され続ける可能性があります。特に炎上などの際、その情報がAIの「知識」として定着してしまうリスクも考えられます。
- ソースのブラックボックス化:AIは複数のソースを元に回答を生成するため、どの情報がどのように影響したのかを特定するのが難しい場合があります。
第3章:結論 ― 従来のサジェスト対策はAI検索に通用しない
ここまでの話をまとめると、結論は明確です。
従来の「サジェストの文字列」を操作するような対策は、AI検索エンジンに対しては、ほぼ通用しません。
AIは、検索ボリュームという表面的な指標ではなく、Web上に存在するコンテンツの「意味」や「文脈」を理解しようとします。小手先のテクニックでAIを欺くことは不可能です。Googleへの削除申請も、AIが参照する無数のWebページの一つを消すに過ぎず、根本的な解決には至らないケースが増えるでしょう。
私たちは、パラダイムシフトを迫られています。それは、問題が起きてから対処する「サジェスト対策」から、常日頃から自社に有利な情報環境を育てる「情報環境の構築」へと発想を転換することです。
第4章:AI検索時代に必須!新しい評判管理5つの具体策
では、具体的に何をすれば良いのでしょうか。これからのAI時代に求められる、本質的かつ効果的な5つの評判管理(レピュテーションマネジメント)戦略をご紹介します。これらは、AIに「良質な情報源」として認識され、ポジティブな評価を形成してもらうための王道と言えるでしょう。
1. 高品質で信頼性の高い一次情報の発信(E-E-A-Tの徹底)
AIが最も信頼する情報源は、企業や組織が自ら発信する「一次情報」です。公式サイト、オウンドメディア、公式ブログなどを通じて、Googleが重視する品質評価ガイドライン「E-E-A-T」(Experience: 経験, Expertise: 専門性, Authoritativeness: 権威性, Trustworthiness: 信頼性)を満たすコンテンツを継続的に発信しましょう。
- 経験:製品開発の裏側、導入企業の成功事例、社員の体験談など、当事者しか語れないストーリーを発信する。
- 専門性:業界の動向分析、技術解説、調査レポートなど、深い知見に基づいたコンテンツを提供する。
- 権威性:経営者のビジョン、受賞歴、メディア掲載実績などを積極的に公開し、その分野の第一人者であることを示す。
- 信頼性:会社概要、所在地、問い合わせ先を明記し、プライバシーポリシーを整備する。「誰が、どのような責任をもって発信しているか」を明確にすることが、AIとユーザー双方からの信頼につながります。
2. ポジティブな第三者評価(レビュー・口コミ)の獲得と活用
自社発信の情報と同じくらい、あるいはそれ以上にAIが重視するのが「第三者による客観的な評価」です。特に、ユーザーからのレビューや口コミは、信頼性の高い情報源としてAIの回答に引用されやすくなります。
- レビュー投稿の促進:商品購入者やサービス利用者に対し、メールやアプリ通知でレビュー投稿を依頼する仕組みを構築する。
- 外部レビューサイトの活用:Googleビジネスプロフィールや業界専門の口コミサイトで高評価を集める努力をする。
- 自社サイトでの紹介:集まった好意的なレビューを、顧客の許可を得て自社サイトの「お客様の声」ページなどで紹介し、ポジティブな情報を集約する。
3. 構造化データの活用による「事実」の明示
「構造化データ」とは、Webページの内容を検索エンジンが正確に理解できるように、特定のフォーマットで情報をタグ付けする技術です。これを活用することで、企業名、住所、製品情報、価格、評価といった「事実」を、AIに誤解なく伝えることができます。
例えば、Schema.org
のボキャブラリを使い、以下のような情報をマークアップします。
- Organization:企業情報(正式名称、ロゴ、住所、SNSアカウントなど)
- Product:製品情報(製品名、画像、説明、価格、在庫状況など)
- Review/AggregateRating:レビューや総合評価
- FAQPage:よくある質問とその回答
これは、AIに対して「私たちの会社や製品に関する公式なデータはこれです」と宣言するようなもので、情報の正確性を担保する上で非常に重要です。
4. 積極的なサイテーション(言及・引用)の獲得
信頼できる外部サイトから、自社名や商品名が言及・引用(サイテーション)されることも、AIからの評価を高める上で極めて有効です。特に、権威あるニュースメディアや業界専門サイトからのリンクや言及は、強力な信頼のシグナルとなります。
- プレスリリースの配信:新製品の発表、業務提携、調査結果など、ニュース価値のある情報を積極的にプレスリリースとして配信する。
- メディアリレーションズ:日頃からメディアの記者と良好な関係を築き、取材やコメントの機会を得られるように働きかける。
- ゲストブログや共同調査:業界の有力なブログに寄稿したり、他社と共同で調査レポートを発表したりすることで、自然な形で言及を獲得する。
5. ネガティブ情報への誠実かつ迅速な対応
どんなに努力しても、ネガティブな情報がWeb上に出てしまうことはあります。その際に最も重要なのは、無視したり隠したりするのではなく、誠実かつ迅速に対応する姿勢を見せることです。
不祥事や製品の不具合が発生した場合、公式サイトやプレスリリースを通じて、速やかに以下の情報を公開しましょう。
- 事実関係の正確な説明
- 原因の分析
- 具体的な再発防止策
- 顧客への謝罪と補償(必要な場合)
このような公式見解は、AIにとって最も信頼できる「一次情報」となります。ネット上の憶測や批判記事だけでなく、企業の誠実な対応も併せてAIに学習させることで、生成される回答のトーンをより中立的、あるいは好意的なものに導くことが可能になります。
まとめ:AI時代は、誠実な企業が正しく評価される時代
本記事では、AI検索時代の到来によって、従来のサジェスト対策が通用しなくなりつつある現実と、それに代わる新しい評判管理戦略を解説しました。
ポイントを改めて整理します。
- 変化の本質:問題は「サジェストの文字列」から「AIが生成する回答文」へシフトした。
- 対策の限界:検索ボリュームを操作するような小手先のテクニックは、コンテンツの中身を見るAIには通用しない。
- 新しい常識:求められるのは、問題発生後の「対策」ではなく、常日頃からの「情報環境の構築」である。
- 5つの具体策:①高品質な一次情報発信(E-E-A-T)、②ポジティブな第三者評価の獲得、③構造化データの実装、④サイテーションの獲得、⑤ネガティブ情報への誠実な対応。
AI検索エンジンの普及は、一見すると企業にとって新たな脅威のように思えるかもしれません。しかし、見方を変えれば、これは「ごまかしが効かず、誠実に価値を提供し、その情報を正しく発信している企業が、正当に評価される時代の幕開け」とも言えます。
これからは、広報、マーケティング、カスタマーサポートといった部署の垣根を越え、全社一丸となって自社の「信頼性」という資産を築き上げていくことが、最高のAI検索対策となるのです。